来 歴

冠

一途にたいせつにしたものだ
人生の最も光栄ある時代
ひたすら黄金の冠
或いは煌く勲章を得んがため
だが莫大な浪費であつたらしい
同じ最も輝かしい時代
中身のない栄誉と嵩だかい誇とを
一生の負債として


空は摺鉢型にひらき
私の望は不逞であつた
道があり前に進むことだけがあり
私は風と肩を並べて走り続けた
私は急ぎ
私のまわりには草の生えるいとまもなかつた
まして王冠は草ではなかつたので
私の手足はむだにはたらき
私は徒労の代償になおひどい徒労を得たものだ


未来にかかることごとくの光栄が
いつからのことだ
私の人生に於て雲のごとき位置を占めたのは
空のものは空にかえせ
だが今は蝶貝のふたのように閉じてしまつた空
右へ往つても左へ往つても
暗い壁につき当りはねかえり
未来は爪先のむく方というだけ
時に躓いて道まで賭けてしまうこともあるが
約束も賭も大差ないのだ
こういう世界こういう時代
瀰漫する埃にすぎない人生の中で
この際続くものが賭であるか浪費であるか
私には言えない
僅かに頭を掩う暗い空でしかない冠を
私はいただいて
今やつと立ち止まつたところだ
左足か右足を前に出した姿勢のまま

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